<コメント>
DVD、ブルーレイレコーダーに取って代わられ過去のものとなってしまったビデオテープ。この延々と繰り出されるテープは、過去の膨大な記憶であると同時に視覚化された時間でもあるが、今となっては社会に溢れ出る厄介者の一つとなっている。 天井にセットされた50本のカセットは低速モーターにより極ゆっくりとテープを床まではき出していく。そこに国内三カ所の風景をテープ越しに壁面に映写する。それは版画東海道五十三次の雨のシーンで知られる神奈川県の大磯、三重県の庄野、滋賀県の土山の推測できる現在の場所を撮影したものである。 密かに伸びるテープは現代社会に忍びよる不安を思い起こさせ、その黒い雨は版画の美しいシーンを流し去るかのように延々と床に広がってゆく。しかしこのテープ、そのまま回り続けるのか、それとも逆転し時間を逆行するのか、ある時点で偶然がプログラムされている。それは交流モーターが一時停止した時点の磁石のわずかな位置の違いによって決まる。 近代化の名の下に繰り返されてきた大量消費とそのあげくの大量破棄の流れは、もう許されないところまで来ていることをすでに皆が感じ始めている。そしてその流れを押しとどめ、再生に目を向ける様々な動きが目立ってきている。しかし社会という欲望の渦の中にあっては直ちにその方向を修正することは難しいかもしれない。作品のテープの流れが僅かなスタンスの違いによって切りかわるように。 |
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